東京地方裁判所 平成7年(ワ)13958号 判決
原告 株式会社羽生田鉄工
右代表者代表取締役 羽生田義人
原告 株式会社エヌアールハニウダ
右代表者代表取締役 羽生田義人
右原告両名訴訟代理人弁護士 齊藤誠
同 米山健也
被告 株式会社日本興業銀行
右代表者代表取締役 西村正雄
右訴訟代理人弁護士 土屋東一
同 五十嵐チカ
被告 興和不動産株式会社
右代表者代表取締役 吉田達夫
右訴訟代理人弁護士 谷口圭佑
同 雨笠宏雄
同 田中茂
主文
一 被告興和不動産株式会社は、原告株式会社羽生田鉄工に対し、二三億二一九一万七九二二円及びこれに対する平成四年七月一八日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告興和不動産株式会社は、原告株式会社エヌアールハニウダに対し、五〇四〇万六四三八円及びこれに対する平成四年七月一八日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告らの被告興和不動産株式会社に対するその余の請求及び被告株式会社日本興業銀行に対する請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用は、原告株式会社羽生田鉄工と被告興和不動産株式会社との間においては、同原告に生じた費用の一〇分の一を同被告の、同被告に生じた費用の一〇分の七を同原告の各負担とし、その余は各自の負担とし、原告株式会社エヌアールハニウダと被告興和不動産株式会社との間においては、同原告に生じた費用の一〇〇分の一を同被告の、同被告に生じた費用の五分の一を同原告の各負担とし、その余は各自の負担とし、原告らと被告株式会社日本興業銀行との間においては、全部原告らの負担とする。
五 この判決は、第一項及び第二項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
一 主位的請求
1 被告らは、原告株式会社羽生田鉄工に対し、各自、二〇一億二三九二万六四五一円及びこれに対する平成四年七月一八日から支払済まで年六分の割合による金員を支払え。
2 被告らは、原告株式会社エヌアールハニウダに対し、各自、五九億一六二〇万四七二五円及びこれに対する平成四年七月一八日から支払済まで年六分の割合による金員を支払え。
二 予備的請求
1 被告らは、原告株式会社羽生田鉄工に対し、各自、一九六億〇一〇一万三七二三円及びこれに対する平成四年七月一八日から支払済まで年六分の割合による金員を支払え。
2 被告らは、原告株式会社エヌアールハニウダに対し、各自、五二億一二一四万七五七七円及びこれに対する平成四年七月一八日から支払済まで年六分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
[当事者等の略称]
以下、当事者名を次のとおり略記する。
原告株式会社羽生田鉄工 原告鉄工
原告株式会社エヌアールハニウダ 原告エヌアール
株式会社熊谷組 熊谷組
株式会社善建築設計事務所 善設計
(以下、右四社を併せて「原告側」という。)
株式会社ロジェ企画 ロジェ企画
被告株式会社日本興業銀行 被告興銀
被告興和不動産株式会社 被告興和
武蔵野開発株式会社 武蔵野開発
株式会社日本設計 日本設計
本件は、原告らが熊谷組とともに原告らの借地及び所有地上に建物を建築し土地建物を一括して売却する計画を進めたことに関し、原告らが、右計画実現のため、被告興和との間で、被告興和において右土地建物を買い受けた上被告興銀にこれを転売することを目的とした基本協定を締結し、この協定を前提に、原告鉄工において借地の所有権を買い取り、被告らとの間で建物の設計等について協議を重ねていたにもかかわらず、被告らが国土利用計画法(以下「国土法」という。)に基づく届出手続等に協力せず、結局、土地建物の売買契約が成立しなかったとして、被告らに対し、右基本協定ないし信義則に基づく義務違反を理由とする債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償を求めた事案である。
一 前提事実(当事者間に争いがない事実及び証拠上容易に認定できる事実であって、後者については、認定に供した証拠を認定の後の括弧[ ]内に記載した。)
1(一) 原告鉄工は、各種ボイラ、圧力容器、真空容器、蒸煮器、熱交換器、化学機械及び同装置並びにこれらの附属品の製造販売修理等を目的とする株式会社、原告エヌアールは、不動産の売買、管理及び賃貸業等を目的とする株式会社であり、いずれも羽生田義人(以下「羽生田」という。)が代表取締役を務める関連会社である。
(二) 被告興銀は、長期信用銀行業務等を目的とする株式会社、被告興和は、不動産の売買、その仲介及び鑑定等を目的とする株式会社であり、被告興銀は、被告興和の発行済株式の約四・七パーセントを保有し、被告興和の代表取締役を始めとする役員の大部分は被告興銀の出身者である。
2(一) 原告鉄工は、福島合名会社から、別紙物件目録一記載の各土地(以下「本件土地一」という。)のうち、1ないし6及び7の一部を賃借し、同土地上に同目録三記載の工場等(以下「本件工場等」という。)を所有して操業していた(甲四の1ないし7、五の1ないし8及び九)。
原告エヌアールは、本件土地一に隣接する別紙物件目録二記載の土地(以下「本件土地二」といい、本件土地一と併せて「本件土地」という。)を所有するとともに、福島合名会社から、本件土地一のうち、別紙物件目録一の7及び9の一部並びに8の土地を賃借していた(甲四の7ないし9及び一〇)。
(二) 熊谷組は、平成元年二月六日、福島合名会社から、本件土地一を買い取り、原告鉄工及び原告エヌアールに対する賃貸人たる地位を承継した。
3 原告ら、被告興和、熊谷組及び善設計は、平成二年八月三〇日付で、原告らを売主、被告興和を買主、熊谷組及び善設計を利害関係人として、買主が売主に対し建物の設計、仕様等の内容につき要望を出し、売主が施主となって建築をした上、土地建物を買主に一括売却する、いわゆる売建方式による土地建物売買契約に関し、次の事項等を内容とする基本協定を締結した(甲一。以下「本件基本協定」といい、本件基本協定の目的である土地建物売買契約の履行完成までの計画を「本件プロジェクト」という。)。
(一) 対象土地
(1) 本件土地一(熊谷組所有地)及び本件土地二
(2) 原告らは、熊谷組より、本件土地一を買い取ることとし、そのために必要な国土法二四条の不勧告通知を平成二年一〇月中に得るよう努力する。
(3) 被告興和は、前項の売買代金につき、原告らに対し、金融機関のあっせんに協力する。
(二) 建物
[仮称]KOWA西葛西タワービル(以下「本件建物」という。)
(三) 建築設計・施工
建築基準法五九条の二の総合設計制度(敷地上に公共のために開放する空地を設ける等の条件を満たすことにより容積率の割増しを受ける制度)に基づき、被告興和が要望する設計仕様により善設計が建築設計を行い、熊谷組が建築施工をする。
(四) 計画手順
(1) 土地売買予約契約
ア 原告ら及び被告興和は、原告らが本件土地からの移転資金として被告興和から売買代金を仮受けする便宜上、買手を被告興和とする本件土地の売買予約にかかわる国土法二三条の届出(以下「国土法届出」という。)を平成二年一一月上旬に行う。
イ 右届出につき不勧告通知を得た後、原告らを予約義務者、被告興和を予約権利者、熊谷組及び善設計を利害関係人とし、代金額を国土法二四条の勧告を受けない上限額(以下「国土法価格」という。)とし、本件建物についての総合設計制度許可を予約完結権行使の条件とする本件土地の売買予約契約(以下「本件予約契約」という。)を締結する。
(2) 総合設計制度許可
ア 原告らは、総合設計制度に基づく本件建物の建築設計及び監理業務を善設計に委託し、善設計と熊谷組は、共同して右建築設計業務を行う。本件建物の建築確認申請の名義人は原告らとする。
イ 本件建物の本件土地に対する容積率は、総合設計制度による割増し容積率を加算した四〇三・七五パーセントを下限値とする。
(3) 土地・建物売買契約
ア 原告らと被告興和は、前項の総合設計制度に基づく建築確認を得た後、改めて本件土地及び本件建物の売買に関する国土法届出を行う。この場合の建物代価は、本件建物建築工事費及び設計・監理料を原価とし、これに三七パーセントの利益を加算した額とする。
イ 原告らと被告興和は、右国土法届出に対する不勧告通知を得た後、原告らを売主、被告興和を買主、熊谷組及び善設計を利害関係人として、右アの届出にかかる価格による本件土地及び本件建物の売買契約(以下「本契約」という。)を締結する。
ウ 本契約に先立ち、本件予約契約を解約する。
エ 本契約締結は、平成五年四月末日までを目標とする。
(4) 建築工事発注
原告らは、本件建物建築工事については、被告興和要望の設計仕様に基づき算出した発注額につき被告興和の了解を得た上熊谷組に発注する。
(五) 代金の決済
(1) 本件予約契約における決済方法については、別に代金決済予定(以下「本件代金決済予定」という。)を定める。
(2) 原告らと被告興和は、本契約締結に当たり本件代金決済予定を変更する。
被告興和は、本件予約契約の仮払金を本契約の仮払金に充当し、変更後の本件代金決済予定に照らし、過不足がある場合にはこれを清算する。
(3) 被告興和は、変更後の本件代金決済予定における決済日にその決済額を原告らに支払う。
(六) 所有権移転
(1) 本件建物完成時を本件建物及び本件土地の引渡し時期とし、被告興和及び被告興和の指定する者は、建築工事期間中検査等の目的で立ち入る他は本件建物を買主としての使用収益に供することはできない。
(2) 原告らの被告興和に対する本件建物の引渡しは、被告興和の立会いの下、熊谷組から原告らが受領し、本件土地とともに遅滞なく原告らから被告興和に引き渡して行う。
(3) 被告興和及び被告興和の指定する者が、本件建物引渡し前に本件建物の使用を原告らに申し出た場合、原告らと被告興和及び被告興和の指定する者はこれにつき別途協議する。
(七) 本件基本協定に定めのない事項、本件基本協定に疑義が生じた事項並びに建築関係法令及び税法等に関する法改正があった場合については、原告側及び被告興和の関係者は、その都度これらを別途協議し、その他近隣対策に予測以上の時間を費やした場合等についても関係者一同協議の上、工程表を変更作成する。
4 原告鉄工は、本件基本協定に基づき、熊谷組との間で、平成三年三月二九日、本件土地一を代金八一億五〇〇〇万円で買い取る旨の売買契約を締結した(甲一六)。
原告鉄工は、同年四月一五日、被告興銀から、右売買代金の資金として、六六二三万〇〇三九米ドルを弁済期同年七月一五日の約定で借り受け、同年四月一五日、被告興銀に対し、本件土地一及び本件工場等に極度額九〇億円の共同根抵当権を設定した(甲四の1ないし9、甲五の1ないし8、六三、六四)。
原告鉄工は、同日、熊谷組に対し、右売買契約の売買代金を支払った。
5 原告側、ロジェ企画及び被告興和は、平成三年一二月二六日、ロジェ企画を売主、原告らを売主連帯保証人、被告興和を買主、熊谷組及び善設計を利害関係人として、本件基本協定を次のとおり変更する旨の協定を締結した(甲三。以下「本件変更基本協定」という。)。
(一) 対象土地
本件基本協定に加えて、次の事項を加える。
被告興和は、原告らの事業遂行の便宜上、その系列とするロジェ企画に本件土地を譲渡することを承諾する。なお、原告らはこの事業完了までロジェ企画の債務について連帯保証する。
(二) 計画手順
(1) 原告鉄工所有の底地権の売買契約
本件売買予約契約について以下のとおり変更する。
ア 本件土地一についての国土法届出は平成四年五月末日までに行う(以下「本件国土法届出」という。)。
買主は、被告興和又は被告興和の指定する者とする。
被告興和は、被告興和以外の者を買主に指定する場合、原告ら及びロジェ企画に対し、被告興和指定の買主が被告興和と共同で本件事業計画を完遂すること及び土地賃料以外に同意料など一切を請求しないことを連帯保証する。
イ 原告鉄工は、本件国土法届出について不勧告通知を得た後七日以内に、被告興和との間で、売買価格を国土法価格とし、本件建物の総合設計制度許可を予約完結権行使の条件とする売買予約契約を締結する。
ウ 本件土地所有権の取得者は、原告ら及びロジェ企画と本件土地及び借地権付建物所有権移転日までの間、土地賃貸借契約を結ぶ。
(2) 総合設計制度許可
容積率について以下のとおり変更する。
本件建物の本件土地に対する容積率について、総合設計制度による割増し容積率を加算した下限値を三八五パーセントと変更する。
(3) 本契約
以下の点について変更する。
ア 原告ら及びロジェ企画と被告興和は、前項の総合設計制度に基づく建築確認を得た後、本件土地、借地権及び本件建物の売買に関する国土法届出を行う。
この場合の建物代価は、本件建物建築工事費及び設計・監理料並びに建築確認許可取得にかかわる諸経費に利益加算分として一〇七億五〇〇〇万円を加えた額とする。
イ 「本契約に先立ち、本件予約契約を解約する。」との条項を削除する。
ウ 本契約締結は、アの国土法届出について不勧告通知を得た後とし、平成五年一月末日を努力目標とする。
(4) 建築工事発注
次のとおり変更する。
ロジェ企画は、本件建物建築工事について、被告興和要望の設計仕様に基づき算出した発注額につき被告興和、熊谷組及び善設計と協議し、被告興和の了解を得た上、熊谷組に発注する。
ロジェ企画は、熊谷組及び善設計と連帯し、本件建物竣工日の努力目標を平成七年三月末日とし、完成後の本件建物とともに本件土地及び借地権を被告興和に引き渡す。
6 本件国土法届出は本件変更基本協定において提出期限としていた平成四年五月末日までに行われなかった。
二 争点
1 被告興和の責任原因
(原告らの主張)
(一) 本件変更基本協定上の義務
被告興和は、平成四年五月三一日までに原告らに対し、本件変更基本協定に基づく契約上の義務として、本件土地一について、原告鉄工を売主、被告興和又は同社が指定する第三者である被告興銀を買主、予定対価を八一億五〇〇〇万円とする本件国土法届出を行う義務を負っていた。また、被告興和は、右届出に対し不勧告通知がされた場合には、その後七日以内に、原告鉄工と被告興和又は同社が指定する第三者である被告興銀との間で右価格を売買代金額とする本件土地一の売買予約契約を締結させる義務を負っていた。
(二) 信義則上、本件プロジェクト実現に向けて真摯に協力すべき義務
原告ら及び被告興和は、平成二年四月ころから本件プロジェクトの実現に向けて協力関係に入り、遅くとも本件基本協定成立後においては、互いに本件プロジェクトの実現に向けて誠実に行動すべき信義則上の義務を負っていた。
被告興和は、右の義務の一環としても、右(一)のとおり本件土地一について、八一億五〇〇〇万円を予定対価として本件国土法届出をし、右価格について不勧告通知を受けた後において、右価格で本件土地一を買い取るべき義務を負っていた。
(三) しかし、被告興和は、右義務に違反し、本件国土法届出に協力せず、また、原告鉄工との間で、売買予約契約を締結しなかった。
これは、右(一)及び(二)の義務に違反するものであるから、被告興和は、債務不履行責任及び不法行為責任として、これにより原告らに生じた損害を賠償すべき責任がある。
(被告興和の主張)
(一) 本件基本協定及び本件変更基本協定の法的性格は、売買契約そのものではなく、売建方式による土地建物売買契約締結を目的とし、それに至るまでの交渉段階ないしは準備段階における合意であって、交渉を円滑にするため今後の協議・手順の概要を確認する趣旨で書面化したものにすぎない。
(二) もっとも、交渉段階における当事者は、相互に指向する契約締結に関して、これを妨げる事情を開示、説明し、問い合わせに応じて締結意思決定に明らかに重大な意義を有する事実について適切な情報提供及び報告をし、専門的事項について調査解明し、相手方の誤謬に対し警告、注意をするなど各場合に応じ相互の信頼を裏切らない行為をすべき注意義務を負うものといえる。しかし、本件において、被告興和が、平成四年五月末日の時点において本件国土法届出の手続をしなかったことについては、次のような正当な理由がある。
まず、本件基本協定は、売建方式を前提にしているところ、右方式によると、転売先を見つけ、予定建物の設計仕様が煮詰まるまでは売買価格を確定することができない。しかし、平成四年五月末日の時点では、本件建物の基本構想すらまとまっていなかった。
また、国土法届出をするに当たっては、土地の予定対価を定める必要があるところ、本件変更基本協定においては、本件土地の予定対価は、全く決まっていなかった。
さらに、平成二年当時、土地は、国土法価格よりも実勢価格が高く、本件基本協定は、本件土地の国土法価格に加えて建物価格に実質的な土地売買代金の上乗せをすることを前提にして締結されたものであるが、平成四年に入ると、土地の実勢価格の下落が激しくなり、国土法価格を相当下回るようになった。かかる地価暴落は、本件基本協定及び本件変更基本協定の前提を覆すものであり、右協定で合意されている協議事項に該当するから、協定内容を再検討しないまま本件変更基本協定を履行することはかえって信義則に反する。
被告興和は、これらの事情を踏まえて、原告らに対し、国土法届出価格の減額について再協議すべきであること等を伝え、同時に、原告らが右のような事情を斟酌せず、協議に応じないのであれば、本件基本協定は破棄せざるを得ない旨伝えたが、原告らが協議に応じなかった。
(三) 以上のとおり、被告興和が平成四年五月末日までに、本件国土法届出手続をしなかったことについては、正当な理由があるから、本件基本協定上の債務ないし信義則上の債務の不履行による債務不履行責任はないし、不法行為責任もない。
2 被告興銀の責任原因
(原告らの主張)
(一) 変更基本協定上の義務
(1) 被告興銀は、本件基本協定及び本件変更基本協定のいずれについても、書面上、当事者として名を連ねてはいないが、実際には、被告興和を代理人として、本件基本協定及び本件変更基本協定を締結した。したがって、被告興銀は、被告興和と同様、本件変更基本協定に基づく義務を負う。
(2) 仮に、被告興銀が、本件基本協定及び本件変更基本協定の当事者ではないとしても、以下の理由により、信義則上、変更基本協定の当事者である被告興和と同一視されるべきである。
<1> 被告興銀は、本件土地建物の最終的な買主になることを前提として、平成三年四月一五日、原告鉄工に対し、熊谷組から本件土地一を買い受けるための代金として九〇億円を融資した。
<2> 被告興銀は、右融資により、原告らが他の買手と交渉することを事実上不可能にし、その結果、原告らは、被告興銀が最終的に本件土地建物を買い取らなければ、右融資の返済が不可能な状態になった。
<3> 遅くとも平成三年八月六日以降は、被告興銀が本件土地建物の最終買受人(以下「エンドユーザー」という。)になることを前提として、本件建物の設計等についての打合せがされた。
<4> 本件変更基本協定においても、被告興和又は同社の指定する第三者である被告興銀が本件土地一を買い取るべき旨が定められていた。
<5> 被告興銀は、本件プロジェクトをその支配下に置く目的で、変更基本協定締結を図るべく、ロジェ企画に対し、五億円を融資した。
<6> 被告興銀は、本件基本協定及び本件変更協定の内容を熟知し、被告興和が本件土地一を買い取るについては被告興銀の承認が必要であることを認識しながら、本件土地一の買取りを承認せず、本件国土法届出を出せなくした。
(3) よって、被告興銀は、原告に対し、本件変更基本協定に基づく契約上の義務として、平成四年五月三一日までに、本件土地一について、原告鉄工を売主、被告興銀又は被告興和を買主、予定対価を八一億五〇〇〇万円とする本件国土法届出を行う義務を負っていた。そして、被告興銀は、右届出に対し不勧告通知がされた場合には、その後七日以内に、原告鉄工と被告興和又は被告興銀との間で右価格を売買代金額とする本件土地一の売買予約契約を締結させる義務を負っていた。
(二) 信義則上、本件プロジェクト実現に向けて真摯に協力すべき義務
(1) 原告ら及び被告興銀は、遅くとも原告鉄工に対する九〇億円の融資がされた平成三年四月一五日には、本件プロジェクトの実現に向けて協力関係に入り、同日以降は、互いに本件プロジェクトの実現に向けて誠実に行動すべき信義則上の義務を負っていた。
(2) 被告興銀は、右の義務の一環として、右(一)のとおり本件土地一について八一億五〇〇〇万円を予定対価として本件国土法届出をし、右価格について不勧告通知を受けた後において、右価格で本件土地一を買い取るべき義務を負っていた。
(3) また、被告興銀は、右(1) の義務の一環として、原告鉄工に対する融資金については、弁済期が到来しても、正当な理由がない限り、本件プロジェクト実現により原告鉄工が取得する本件土地建物の売買代金によって回収を図り、右プロジェクトの実現を不可能とする根抵当権の実行は行わない義務を負っていた。
(三) しかし、被告興銀は、右義務に違反し、本件国土法届出に協力せず、また、原告鉄工との間で、売買契約を締結しなかった。これは、右(一)及び(二)の義務に違反するものであるから、被告興銀は、債務不履行責任及び不法行為責任として、これにより原告らに生じた損害を賠償すべき責任がある。
また、被告興銀は、正当な理由がないにもかかわらず、本件土地一に設定された根抵当権を実行した。これは、右(一)並びに(二)(1) 及び(3) の義務に違反するものであるから、被告興銀は、債務不履行責任及び不法行為責任として、これにより原告らに生じた損害を賠償すべき責任がある。
(被告興銀の主張)
(一) 被告興銀は、本件基本協定及び本件変更基本協定のいずれも当事者として締結したことはないし、右各協定成立後、右各協定により生じる権利義務関係について、いかなる態様をもってしても関与する旨意思表示したことはない。被告興銀と被告興和の法人格が別個であることはいうまでもなく、契約法理における私的自治の原則上、被告興銀が、本件基本協定等により何らかの義務を負担する理由はない。
(二) 被告興銀は、あくまでエンドユーザー候補の一人として本件プロジェクトにかかる建物が購入使用するに値するかどうかを検討していたにすぎず、平成二年七月に、エンドユーザーとして最終的に使用することが決定していたという事実はない上、原告鉄工に対する平成三年四月一五日の九〇億円の融資も、善設計の佐藤が被告興銀虎の門支店に持ち込んだ案件であり、通常の融資として行ったにすぎないから、信義則上、本件変更基本協定の当事者である被告興和と同一視すべき事情は何ら存在しない。
(三) また、国土法届出期限は、本件変更基本協定作成時における目標ないし希望的観測として、本件プロジェクトに関する諸事項につき関係者の合意が順次成立し、本件プロジェクトが極めて円滑順調に進行した場合の最も早い時期を想定して記載されたものにすぎないから、そもそも被告興和ですら原告らが主張するような国土法届出の義務を負担していない。仮に、被告興和がかかる義務を負っていたとしても、善設計が利益率の高い総合設計案に固執したため、再三の協議交渉にもかかわらず結局被告興銀の要望にそった設計案が提示されず、最後まで本件建物の概要、仕様、具体的設備面等のほか、竣工時期や価格等が不確定のままであったため本件国土法届出を行わなかったにすぎない。したがって、被告興和としても、右のような本件プロジェクトの進行状況からして本件国土法届出を行い得る状況にはなかったのであり、被告興和に責められるべき落ち度はない。
したがって、被告興銀が、被告興和と同視すべき立場にあったとしても、被告興和に責任がない以上、被告興銀にも責任はない。
3 損害
(原告らの主張)
(一) 主位的主張
(1) 前提事実-本件プロジェクト実現が確実であったこと
本件建物の総合設計制度に基づく設計に関しては、平成四年一月二二日、東京都から当時の計画案に新たな指導事項はないとの考えが示されており、建築確認が得られることが確実な状況であった。そして右建築確認が得られた後は、本件土地一の借地権及び本件土地二に関する国土法届出を経て、本件土地及び本件建物の売買契約(本契約)が締結され、その後、原告らによる熊谷組に対する請負工事発注、訴外熊谷組による建物建築施工、本件土地建物の引渡しという経過を経て、本件プロジェクトは完了する予定であった。
仮に、被告らが、本件土地一について、約定どおりの本件国土法届出、売買予約契約締結を行い、かつ、その後においても本件変更基本協定のとおり計画が進んだのであれば、<1>右のとおり総合設計制度に基づく建築確認を得られることが確実であったこと<2>設計業務については熊谷組が善設計と共同して行っていたこと<3>施工業者である熊谷組が我が国有数の建設会社であり、施工面において何ら懸念もないことからして、本件プロジェクトが実現、完了することは確実な状況であった。
すなわち、本件プロジェクトが実現できなかった理由は挙げて被告らが本件変更基本協定二条一項に定められた本件国土法届出をせず、本件土地一の売買予約契約を締結しなかったことにあり、かかる債務不履行ないし不法行為により、原告らは本件プロジェクトが実現した場合に得られたであろう利益を得られず、同額の損害を被るに至った。また、原告らは、本件プロジェクトが予定どおり実現していれば不要であった出費も余儀なくされており、これも被告らの債務不履行ないし不法行為と相当因果関係のある損害として、賠償されるべきものである。
(2) 損害額
ア 原告鉄工に生じた損害 合計二〇一億二三九二万六四五一円
(ア) 本件土地一の売買代金相当額 八一億五〇〇〇万円
(イ) 本件土地一の借地権の売買代金相当額 七六億七二二〇万一八七五円
(ウ) 建物売却利益 三四億九九一二万五〇〇〇円
(エ) その他
a 平成四年七月一七日以降の被告興銀からの借入金に対する利息及び損害金 三六億〇七二二万七五一九円
b 固定資産税及び都市計画税相当額 一億五〇八九万二八三六円
c 地価税相当額 五七二三万五二六九円
d 従業員に対する退職金 一億二一五三万八八〇五円
e 設計監理料(企画料) 一億〇三〇〇万円
(オ) 損益相殺 ▲三六億五五〇〇万円
(カ) 弁護士費用 四億一七七〇万五一四七円
イ 原告エヌアールに生じた損害 合計五九億一六二〇万四七二五円
(ア) 本件土地一の借地部分及び本件土地二の売買代金相当額 四一億一六四五万円
(イ) 建物売買利益 一八億七五八七万五〇〇〇円
(ウ) 設計監理料(企画料) 二億円
(エ) 損益相殺 ▲四億〇一六〇万円
(オ) 弁護士費用 一億二五四七万九七二五円
(二) 予備的主張
(1) 原告らは、本件プロジェクトが実現することを信頼して、各種費用を支出したが、これはいわゆる信頼利益であり、被告らの債務不履行ないし不法行為と相当因果関係のある損害として賠償されるべきである。
また、仮に本件プロジェクトがなければ、原告らは、本件土地(本件土地一については借地権、本件土地二については所有権)を遅くとも平成二年一二月末ごろまでには、その当時の時価(少なくとも坪当たり六三〇万円)で売却し、右売却代金相当額の利益を得ることができた。原告らは、本件プロジェクトの実現を信頼し、かつ、これに拘束されていたが故に右売却の機会を失い、右売却代金相当額の損害を被ったのであり、かかる損害も一種の信頼利益といい得るし、被告らの債務不履行ないし不法行為と相当因果関係のある損害として賠償されるべきものである。
(2) 損害額
ア 原告鉄工に生じた損害 合計一九六億〇一〇一万三七二三円
(ア) 本件土地一の取得費用 八一億五〇〇〇万円
(イ) 売買契約書貼用印紙額 六〇万円
(ウ) 仲介手数料 二億五一八三万五〇〇〇円
(エ) 司法書士手数料及び印紙額 一億〇六一五万九七六〇円
(オ) 不動産取得税 五一六八万一五〇〇円
(カ) 不動産鑑定手数料 九二一万二〇三三円
(キ) 被告興銀からの借入金に対する利息及び損害金 四四億四二六一万〇一三〇円
(ク) 被告興銀からの借換えに際して要した貼用印紙額 八〇万円
(ケ) 固定資産税及び都市計画税相当額 一億六二〇二万三〇〇〇円
(コ) 地価税相当額 六三二四万六八〇〇円
(サ) 設計監理料(企画料) 一億〇三〇〇万円
(シ) 借地権売却代金相当額 九九億一四八四万五五〇〇円
(ス) 損益相殺 ▲三六億五五〇〇万円
イ 原告エヌアールに生じた損害 合計五二億一二一四万七五七七円
(ア) 土地売買契約書貼用印紙額 四〇万円
(イ) 設計監理料(企画料) 二億円
(ウ) 税理士報酬 二〇〇〇万円
(エ) 不動産鑑定手数料等 八一万二八七七円
(オ) 法人税及び地方税 七二八一万四七〇〇円
(カ) 借地権・土地売却代金相当額 五三億一九七二万円
(キ) 損益相殺 ▲四億〇一六〇万円
(被告らの主張)
いずれも不知ないし否認する。
第三当裁判所の判断
一 争点1(被告興和の責任原因)及び争点2(被告興銀の責任原因)について
1 本件の経緯
前記前提事実と甲一号証ないし一八号証、四八号証ないし五〇号証、五一号証の1ないし11、五二号証の1ないし3、五三号証の1ないし6、五四号証ないし五六号証、五七号証の1ないし3、六二号証ないし六五号証、七七号証、七八号証の1及び2、七九号証、八〇号証、八二号証ないし九〇号証、九一号証の1及び2、九二号証、九四号証、九八号証、九九号証の1ないし3、一〇〇号証ないし一〇三号証、一〇六号証、一〇七号証の1ないし3、一〇八号証、一〇九号証、一一六号証の1ないし4、一五八号証、乙二号証、三号証、七号証ないし九号証、丙一四号証ないし二一号証並びに証人佐藤、同後迫、同伊藤、同菅野及び同田巻の各証言を総合すると以下の事実が認められる。
(一) 原告鉄工は、昭和六三年に長野県に本店を置く株式会社羽生田鉄工所から本件工場等における事業などの営業の一部譲渡を受けて設立されたが、右会社においては、昭和六〇年ころから、近隣に対する騒音問題から本件工場等の移転の検討を始め、善設計に右移転計画の設計を依頼した。善設計は、当初、本件土地一の所有者福島合名会社に対し、原告らと共同で本件土地上に建物を建築し、いわゆる売建方式で売却することを提案したが、同社に断られたため、同社が本件土地一を熊谷組に売却し、原告鉄工、原告エヌアール及び熊谷組で共同事業をすることになった(甲六)。熊谷組は、平成元年二月六日、福島合名会社から、本件土地一を買い取り、原告鉄工及び原告エヌアールに対する賃貸人たる地位を承継した。
その後、熊谷組の提案で、隣接地の所有者である株式会社日本ランディック(以下「ランディック」という。)も事業主に加えた共同事業を計画した(甲七)。
(二) 平成元年ないし二年初めころの時点では、本件土地建物の買主として、地元の地主四名の共同体、日本生命保険相互会社、ランディックなどとともに武蔵野開発が紹介した被告興和が候補として挙がっていたが、原告らは、不動産取引に伴う紛争回避のため買主として自ら建物を使用する者を希望しており、被告興和が自ら購入する意向を示していたこと及び被告興銀の関連会社である上高い購入金額を提示していたことから、次第に買主を被告興和に絞るようになった。
被告興和は、平成二年二月一九日、善設計及び熊谷組に対し、本件土地及びランディック所有地について不動産買受申込書を提出した。
(三) その後、原告らの代理人である善設計代表取締役佐藤善則(以下「佐藤」という。)、被告興和の仲介事業部副部長の田巻博忠(以下「田巻」という。)、武蔵野開発の代表取締役社長後迫巌(以下「後迫」という。)及び熊谷組の担当者らが交渉を進め、ランディックが被告興銀と同じ長期信用銀行の一つである株式会社日本長期信用銀行の関連会社である上、所有土地についての価格要求が高かったことから、ランディックを共同事業から外すこととし、その結果土地面積が縮小しても建物の規模が小さくならないように総合設計制度を採用すること、熊谷組は、共同開発事業利益を放棄して施工のみを担当することとし、原告鉄工が熊谷組から本件土地一を買い取って土地権利を一本化すること、原告鉄工の右買取り資金は、同社のメインバンクである株式会社三菱銀行ではなく、被告興銀から融資を受けることを合意した。
善設計は、平成二年三月二一日、総合設計検討書(丙一四)を作成した。
(四) 原告らの代理人である善設計及び熊谷組は、平成二年四月二四日、被告興和に対し、ランディック所有地を除いた土地である本件土地の不動産売渡承諾書を提出し、被告興和は、仲介者である武蔵野開発らあてに事業計画書及び売渡書の受理書を提出した。
(五) その後、原告側と被告興和は、総合設計制度を採用するなどの本件プロジェクトの概要及び計画手順を検討し、平成二年八月ころには、本件基本協定書案が完成した。また、売買代金についても原告側及び被告興和との間でほぼ合意ができ、基本協定補足書が作成された。同書面には、土地価格については坪単価六〇〇万円、法床工事単価は坪単価一五〇万円以上と記載されていたが、原告側及び被告興和の間では法床工事単価は、一八〇万から二〇〇万円とし、土地価格については、国土法届出は予定対価を六五〇万円として提出し、これに不勧告通知が得られれば、これを売買代金とすることが想定されていた。
右基本協定補足書は、国土法との関係で押印はされなかったが、基本協定書に関しては、同月初旬より、持ち回りで各社の決済を経て押印することとなった。
(六) 田巻及び後迫は、本件建物の転売先として、当初は株式会社三和銀行(以下「三和銀行」という。)を第一候補とし、三和銀行による買受けは確実であると考えており、三和銀行は、本件基本協定書が作成の過程にあった平成二年八月二一日、被告興和に対し、本件土地に関する不動産買付申込書(丙二一)を交付した。しかし、後迫は、被告興和が、被告興銀の関連会社であることから、念のため、被告興銀に対しても本件プロジェクトについて打診したところ、被告興銀は、その電算センターが手狭になり、同年春ころから新たな移転先を検討していたことから、本件プロジェクトを前向きに検討することになり、このころ、被告興和に対し、買付証明を交付した。
平成二年八月二九日、持ち回りによる本件基本協定書の作成が完了したが、被告興銀が本件プロジェクトを検討することになったという事情から、田巻が被告興銀の決済が必要であると要望し、書面上の日付は同月三〇日とされた。
(七) 被告興和は、前項のとおり、本件土地建物の転売先として三和銀行を最有力候補と考えていたが、被告興銀の関連会社であることから、確定的な返答を得ていないにしても被告興銀を第一候補とせざるを得ず、平成二年九月になって、三和銀行に対し、本件土地建物の買受申込みを断った。
他方、被告興銀は、担当者が後迫から協定書を示されるなどして、総合設計制度の採用等本件基本協定の概要は知らされていたものの、被告興和の本件土地建物の買受価格については何ら知らされておらず、被告興和との間の売買契約の内容についても、被告興和から建物の建築単価が坪当たり一五〇万円であると説明を受けたのみで、具体的な交渉をしていなかった。そして被告興銀が被告興和から本件基本協定書の写しを入手したのは平成三年七月であり、前記基本協定補足書の写しを入手したのは、平成四年一月である。
(八) 善設計は、平成二年九月七日、本件基本協定に基づき、総合設計制度を採用した[仮称]KOWA西葛西タワービル1棟案(丙一五)を作成し、田巻に交付した。被告興銀には、田巻を通じて、右計画案が手渡された。被告興銀は、同社の建設コンサルタントを行っている日本設計に右ビル案を検討させたところ、日本設計は、同案には日影問題があると指摘し、被告興銀は、被告興和を通じてこれを善設計に伝えた。
しかし、善設計の佐藤が、後迫及び田巻に対して建築設計に関する具体的な要望・設計条件を出すように求めても、田巻は、被告興銀が指示を出さないと説明するだけで具体的な指示はなく、平成二年一二月一四日になってようやく建築イメージ並びにシステム開発用設備及び厚生設備など必要設備を列挙した「システム開発センター必要設備項目」(甲四八)が提出された。
この間、善設計及び熊谷組は、江戸川区役所と総合設計制度に関する調整を行った。
(九) 原告鉄工及び熊谷組は、本件基本協定に基づく本件土地一の売買契約について、平成二年一二月二五日、予定対価を八一億五〇〇七万九二九円とした国土法届出を行い、平成三年一月二一日、不勧告通知を得た。
(一〇) 善設計、熊谷組、被告興和及び被告興銀は、平成三年一月二一日、被告興銀において会合を開き、日本設計も被告興銀のためオブザーバーとしてこれに参加した。この席において、総合設計制度に関する東京都や江戸川区との折衝の中間報告と事前に善設計より提出された本件建物の第二案を基にした基本計画について協議され、被告興銀からは電算センターとしては一フロアに十分な広さが必要であるが、右計画案では不十分であるといった問題点が指摘された。
(一一) 田巻は、被告興銀が、一フロアあたりの面積が広くでき、費用も削減できることから本件建物につき通常設計を希望していることを受けて、右会合のころ、佐藤に対し、通常設計にしてほしいと申し入れたが、佐藤は、本件基本協定で総合設計制度を採用すると決められていることを理由にこれを拒否した。
(一二) 善設計は、その後、被告興和及び被告興銀から設計に関する具体的指示がなかったことから、事態を打開するため、平成三年二月二〇日、区役所に提出する目的で、[仮称]KOWA西葛西タワービル、3rd.PLAN(丙一六)を作製し、被告興和らに交付するなどの作業を行った。
(一三) 原告らの代表取締役羽生田は、本件基本協定に基づく原告鉄工・熊谷組間の本件土地一の売買契約を締結する前に、被告興和が最終的に右土地を購入するとの確約が欲しいと考え、被告興和に対し、不動産買受申込書の交付を要求した。これに対し、被告興和は、先に交付した申込書と同じ内容であれば差し支えないと判断し、平成三年三月五日、善設計及び熊谷組に対し、不動産買受申込書(甲一八)を交付した。
(一四) 右不動産買受申込書が提出されたことを受けて、原告鉄工は、本件基本協定に基づき、平成三年三月二九日、熊谷組との間で本件土地一を八一億五〇〇〇万円で買い受ける旨の売買契約を締結し、同年四月一五日、被告興銀から、手形貸付けの方法で六六二三万〇〇三九米ドルを弁済期同年七月一五日の約定で借り受け、右貸付金から右売買代金を支払って、本件土地一の所有権移転登記を得るとともに、本件土地一及び本件工場等に極度額九〇億円の根抵当権を設定した。
(一五) 原告側、被告興和及び日本設計らは、平成三年五月一六日、被告興銀において会合した。この席で、日本設計は、通常設計制度に基づく「日本興業銀行西葛西PROJECT CASE STUDY-3」(甲六五)を提示して事業規模の縮小を求めた。
これに対し、善設計は、総合設計制度の採用を維持するため、同月末ころから六月一〇日にかけて総合設計に基づく[仮称]KOWA西葛西タワービル基本計画(丙一七、一八)を作成して被告興和らに提出し、さらに、同年七月二四日、二棟案による[仮称]西葛西タワービル基本計画(甲九八、乙七)を作成して低層棟を被告興銀のソフトセンター、高層棟を被告興和の賃貸用ビルにすることを提案し、被告興銀は、右基本計画書を受領した。
(一六) 善設計、熊谷組、被告興和、日本設計及び武蔵野開発は、平成三年八月六日及び七日、被告興和において会合した。この席で、総合設計を採用した善設計の平成三年七月二四日案(甲九八、乙七)を基に検討を加えることとなり、設計仕分については、日本設計はあくまでコンサルタントであり、具体的な設計は行わないこととなった。また、被告興和から、被告興銀は、本来平成六年三月入居を希望しているが、平成七年三月竣工を目標にしたい旨の申入れがあった。
(一七) 善設計、熊谷組及び日本設計は、平成三年八月二九日、熊谷組において会合した。善設計及び熊谷組からは、九月中にプランをつくって工事費の大枠の方針を決定し、一〇月中に被告興和及び被告興銀の決済を受けて一一月末には契約をしたい旨が述べられた。これに対し、日本設計からは、床面積に対する興銀の要望として、最低でも七〇〇〇坪、できれば一万坪欲しい旨が伝えられ、被告興銀の意見取りまとめは日本設計で行うこと、低層部を被告興銀、高層部を被告興和が買う方向で検討すること、近隣対策の関係から被告らの名称は図面その他に表示しないこととすることとなった。
(一八) 善設計、熊谷組、被告興和、被告興銀、日本設計及び武蔵野開発は、平成三年九月五日以降、定例会を開き、本件建物の建築企画等について、打合せをした。同日の第一回定例会においては、基本プランについて興銀要望事項の検討に加えて、建築工事費の値下げも要求された。
これと平行して、善設計及び熊谷組は、総合設計制度の許可を受けるため東京都と事前折衝を行った。
(一九) 熊谷組は、平成三年九月一一日、被告興和に対し、坪当たり二〇〇万円とする概算工事費の見積りを提出したところ、被告興和は、原告鉄工及び原告エヌアールに対し、建物工事費を坪当たり、一五〇万円とするよう値下げの要求をした。
(二〇) 善設計、熊谷組、被告興銀及び日本設計は、平成三年九月一七日、被告興銀において、会合を開いた。この席で、日本設計から改善を要すると思われる事項についての指摘があり、被告興銀の担当者からユーザーとしての建築イメージ、必要設備等の説明があった。
(二一) 善設計、熊谷組、被告興和、被告興銀、日本設計及び武蔵野開発は、平成三年九月二六日、被告興和において第二回定例会を開いた。この席で善設計及び熊谷組から進捗状況の報告があり、被告興銀側から総合設計を適用するための条件整備が最優先であるが、被告興銀の要望事項について十分配慮してほしいとの要望があった。
(二二) 被告興銀は、平成三年一〇月七日、(仮称)西葛西センタービルに対する要望書を作成し、善設計にこれを交付して建物の低層棟と高層棟の使い方などについて要望を述べた。
(二三) 善設計、熊谷組、被告興和、被告興銀、日本設計及び武蔵野開発は、平成三年一〇月一一日、被告興和において第三回定例会を開催し、善設計から設計案を説明し、被告興銀及び被告興和から低層棟はできるだけ容積を減らさないでほしいなどの要望が伝えられた。
(二四) 善設計、熊谷組、被告興和、被告興銀、日本設計及び武蔵野開発は、平成三年一〇月二五日、被告興和において第四回定例会を開催し、善設計から修正案説明があり、スケジュールについて協議がされた。その際、平成七年三月に竣工されるために遅くとも平成五年一月には着工する必要があるが、原告鉄工の工場等の移転には約二年を要するので、一段の工期短縮や移転終了前の一部着工も検討する必要があること、また今後東京都の指導により更に計画が変更される可能性もあるので、被告興銀が検討を進める案としての確定は、いまだ困難であることなどが指摘された。
(二五) 武蔵野開発は、平成三年一〇月二九日、善設計に対し、田巻が被告興銀に対して説明した売買代金についてのメモをファックスで送信し、被告興銀には土地単価を六五〇万円、建物坪単価を二三六万〇五〇五円、法床部分の建物建築坪原価を一五〇万円と説明したので被告興和としてはこの金額で買い取りたい意向である旨を伝えた。
(二六) 原告鉄工は、平成三年一一月一〇日、被告興和に対し、本件建物を坪単価一五〇万円に値引きしてほしいとの要求につき、基本協定書の遵守を求める書面を交付した。
(二七) 原告らは、当初の予定どおりに事業が進まないことに加え、被告興和及び被告興銀から度重なる値下げ要求を受けたため、このままでは事業用(特定)資産の買換え等による特例の適用による税制上の優遇を受けられなくなる可能性が高いこと等の理由から、原告鉄工所有の本件土地一を原告らの関連会社であるロジェ企画に売却して右特例の適用を受けられるようにすることを条件に売買代金の見直しをすることとした。
そこで、佐藤、熊谷組東京支店営業部営業課長の菅野光昭(以下「菅野」という。)、田巻及び後迫は、平成三年一二月二五日、原告らの右条件を踏まえて基本協定を変更することについて話合いをし、原告側は、エンドユーザーが被告興銀であり、直接被告興銀が購入する話も出ていたことから、変更後の基本協定には買主として「被告興和若しくは被告興銀」と表記したいと主張したが、被告ら側は、名前が出ると近隣対策などで問題が生じる可能性があると主張したため、結局「乙又は乙の指定する者」という表記になった。また、本件建物の売買代金については、本件基本協定においては、原価に対して三七パーセントという利益率を加算して算出されていたが、被告らの値下げ要求に対し、原告らが利益を定額にすることで確保しようとし、一〇七億五〇〇〇万円を利益加算分とした。また、被告興和の国土法届出の期限は平成四年五月末日とされた。
これを踏まえて、原告側、ロジェ企画及び被告興和は、平成三年一二月二六日、本件変更基本協定を締結した。被告興銀は、本件変更基本協定の作成には関与しておらず、翌平成四年一月、被告興和から協定書の写しを手に入れた。
(二八) 原告らの前記条件に従い、本件変更基本協定締結に先立つ平成三年一一月二一日、武蔵野開発がロジェ企画の、善設計が原告らの各代理人となって、本件土地一に関してはロジェ企画と原告鉄工との間の借地権設定(本件土地一中別紙物件目録一1ないし6の土地及び同一7の土地の一部について)及びロジェ企画と原告エヌアールとの間の借地権売買(本件土地一中同目録一7の土地の一部並びに8及び9の土地について)について、本件土地二についてはロジェ企画と原告エヌアールとの間の売買について、それぞれ国土法届出をした。
ところが、右国土法届出につき、同月二八日、一二パーセント減の価格指導があったため、これを後迫の不正工作によるものと考えた原告らは、届出を取り下げ、同年一二月一〇日、取引態様を変更して再び国土法届出をし、同月二五日、不勧告通知を得た。
ロジェ企画は、右売買契約等の代金の決済資金を、当初、原告らのメインバンクである三菱銀行から借り受けようとしていたが、急きょ被告興銀から融資を受けることとなり、平成三年一二月三一日、被告興銀から五億円を手形貸付の方法により弁済期平成四年一月三一日の約定で借り受けた(右借入金は、約定の返済期日に返済された。)。
(二九) また、本件変更基本協定の締結と平行して、善設計は、平成三年一一月二九日、(仮称)西葛西センタービル基本計画案(甲七七)を作成した。
善設計、熊谷組、被告興和、被告興銀及び日本設計は、同日、被告興和において、第五回定例会を開催した。この席で、善設計から右修正案の説明があり、被告らから早く基本設計が承認でき、ソフトセンターとしての価値が判断できるようにしてほしいとの要望があった。また、別部会として設計打合せ会を設け、詳細な設計内容について早急に詰めを行うことになった。
(三〇) 熊谷組及び日本設計は、平成三年一二月九日、日本設計において第一回設計打合せ会を開き、熊谷組設計部も本格的に作業に取り掛かることとし、設備方式については熊谷組が三案ほど提案し、被告興銀に検討してもらうこととなった。
(三一) 善設計、熊谷組、被告興和、被告興銀及び日本設計は、平成三年一二月二〇日、被告興和において第六回定例会を開催し、善設計から、一一月二九日付の計画案(割増し容積率七二パーセント)で東京都の部長レベルでの了解が得られた旨の説明がされた。この際、被告興銀の担当者から、本件建物は被告興銀が購入する予定ではあるが、いまだ本件建物が被告興銀の使用に適するものか否かの判断ができない旨の発言がされた。
(三二) 田巻は、平成四年一月八日、佐藤に対し、被告興銀用に代金決済予定を記載した文書の変更を依頼し、善設計は、これを作成した。
(三三) 善設計、熊谷組及び日本設計は、平成四年一月二〇日、第二回設計打合せを行い、熊谷組から、法規制のまとめの説明、建築説明、設備・電気関係の説明があり、設備・電気とも、推奨案を一案又は二案までに絞り提案することとなった。
(三四) 平成四年一月二二日、東京都から熊谷組に現計画に対し新たな指導事項はない旨の連絡があり、総合設計制度の許可が下りる見通しが立った。
善設計、熊谷組、被告興和、被告興銀及び日本設計は、平成四年一月二三日、被告興和に集まり、東京都の局長説明の結果が報告され、同年二月五日に予定されている設計打合せ会の内容を基に被告興銀内部の詰めを進めることとなった。
(三五) 善設計と熊谷組は、平成四年一月二四日、二九日及び三一日、それぞれ、現計画の検討項目等及び設備・電気の整合性等、コアプラン等につき打合せを行った。
(三六) 平成四年二月三日、日本設計から善設計及び熊谷組にあてて「日本興業銀行ソフトセンター(西葛西センタービル)の基本計画段階での検討項目(案)」がファックス送信された。
(三七) 熊谷組は、平成四年二月五日ころ、空調設備に関する図面(A案、B案、B’案、C案)を作成して提出した。
(三八) 善設計、熊谷組及び日本設計は、平成四年二月五日、第三回設計打合せ会を行い、コア形状二案及びそれに伴う設備・電気システムについて協議し、A案、B案のいずれを採用するかについて、日本設計が被告興銀と至急協議することとなった。右の作業は、本件建物の設計過程においては、基本計画から基本設計に入る段階に当たるものであった。
(三九) 善設計、熊谷組、被告興和及び日本設計は、平成四年二月五日、被告興和において会合し、この席で、被告興和の担当者から、被告興銀の要望により日本設計に設計を発注した旨の発言があった。これに対し、善設計及び熊谷組が本件変更基本協定違反であるとして反発し、物別れとなった。
(四〇) 善設計、熊谷組、被告興和及び武蔵野開発は、平成四年二月二〇日に会合し、被告興銀が設計を発注したとする日本設計の業務役割について協議し、善設計及び日本設計が甲工事(建物の大枠部分)、乙工事(エンドユーザーの要望にこたえる追加工事部分)及び丙工事の区分表を作成した上、同年三月二日に被告興和に提出し、調整を行うこととなった。
(四一) 善設計、熊谷組、被告興和及び武蔵野開発は、平成四年三月二日に会合し、設計区分に関する善設計案が提出され、被告興和において検討することとなった。
(四二) 善設計、熊谷組、被告興和及び武蔵野開発は、平成四年三月一一日に会合し、被告興和から日本設計作成の設計区分案が提示され、甲工事を善設計、その他を日本設計が担当することにしたいとの要望が出されたが、善設計がこれを拒否したため、被告興和側で再度調整することとなった。
(四三) 善設計、熊谷組、被告興和及び武蔵野開発は、平成四年三月二三日に会合を開き、日本設計が部分的な設計を行うことを前提に、区分案を作成し、後日協議の上結論を出すことになった。また、熊谷組は、電力及び電話の設備導入に関する書類について説明し、右書類の提出につき、被告興和の了承を得た。
(四四) 被告興和は、平成四年四月一七日、善設計及び熊谷組らに対し、被告興和の設計仕様の要望について日本設計を代理人と定め、熊谷組及び善設計において日本設計の要望に従い誠意をもって設計監理に当たるものとする旨の「(仮称)KOWA西葛西タワービル設計仕様業務に関する覚書(案)」(甲一〇〇)を送付した。
これに対し、善設計は、被告興和の本件建物に対する要望を、設計者善設計及び熊谷組に伝える業務の代理人を日本設計と定め、善設計を本件建物の監理業務に当たらせる旨の「[仮称]西葛西センタービルの設計業務に関する覚書(案)」を作成し、これを被告興和らに提示した。
(四五) 平成四年五月以降、佐藤、田巻、後迫及び菅野が会談すると、被告興和側から、更なる値引きの要求が出され、そして、被告興和は、平成四年五月三〇日、原告鉄工及び善設計あてに減額見直し要請の手紙を発送し、同年六月一日に到達した。
その間の同年五月三一日、本件変更基本協定に定められた本件土地一の本件国土法届出期限が徒過した。
(四六) 原告鉄工代理人弁護士横張清美(以下「横張弁護士」という。)は、平成四年六月一日、被告興和に対して本件土地一についての本件国土法届出を催告した。善設計は、同月六日、被告興和の同年五月三〇日付の手紙に対し、横張弁護士が原告鉄工代理人になり、善設計は、代理人としての業務を一時休止する旨の回答を被告興和に送付し、同月七日に到達した。
(四七) 被告興和代理人弁護士谷口圭佑(以下「谷口弁護士」という。)は、平成四年六月九日、横張弁護士に対し、「当事者間で価格の調整ができていない、したがって、提出期限内に届出ができなかったことはやむを得ない。」と回答した。
原告鉄工は、平成四年六月一七日、被告興銀に借入金の利息の棚上げを依頼したが、被告興銀はこれを拒否したため、これまでと同様利息を付けた上同年七月一七日を満期として貸付手形の書替えを行った。
(四八) 谷口弁護士は、平成四年七月一〇日、原告側に対し、「土地価格は国土法届出の一割引、建物売買利益は〇とする。」との申入れをした。
原告鉄工は、平成四年七月一六日、右利息を支払うことができず、被告興銀は、原告鉄工の手形の書替えに応じなかった。
(四九) 被告興銀は、本件土地一及び本件工場等に対する根抵当権の実行を開始し、平成七年一〇月一二日、本件土地一及び本件工場等の競売開始決定を得、平成一〇年八月七日、東京地方裁判所は、三六億五五〇〇万円の価格で特別買受けの申出をした日商岩井不動産株式会社に対し、売却許可決定をした。
原告鉄工は、平成一一年一月三〇日、本件土地一の明渡し執行のため、同日付をもって全従業員を整理解雇した。
(五〇) なお、熊谷組が福島合名会社から本件土地を買い取った平成元年当時、わが国は、いわゆるバブル経済の中にあり、土地価格の騰貴が続いていたが、平成二年春の土地関連融資についてのいわゆる総量規制に関する大蔵省銀行局長通知を機縁に、土地価格は、徐々に下落の傾向を見せ始め、本件変更基本協定が締結された平成三年一二月当時は、既に相当下落が進んでいた。
2 被告興和の責任
(一) 右1で認定の本件の経緯及び前記前提事実3の本件基本協定の内容を総合すると、本件基本協定において本件土地建物の所有権移転時期などが相当詳細に定められ、原告側及び被告興和らがその内容につき口頭の合意をしていた本件基本協定補足書においては本件土地建物の単価等が暫定的に定められていたとはいえ、本件基本協定締結の段階では、本件建物の構造、規模、仕様等は未定であって、総合設計制度の許可及び建築確認を取る必要があり、さらに、国土法届出の結果によっては予定した売買代金の見直しが必要となる等の不確定な要素があり、本件基本協定自体、後の予約契約及び本契約を予定していたのであるから、本件基本協定は、売買契約ないしその予約契約ということはできないのは明らかであり、原告ら、善設計、熊谷組、被告興和との間で、本件プロジェクトについて、建築確認や国土法届出に対する不勧告通知を受けた後に本契約を締結することを目的として、売買契約締結の準備段階においてされた合意というべきである。したがって、本件基本協定によって、被告興和に、その後の事情いかんにかかわらず、当然に本件土地建物の売買についての予約契約ないし本契約を締結する義務が生じたということはできない。
しかしながら、本件基本協定の前記詳細な内容に加え、被告興和は、本件基本協定締結の半年以上前から原告らと本件プロジェクトについて交渉をしており、既に前年に熊谷組が本件プロジェクト実現のために本件土地一の所有権を取得していることを前提に、原告鉄工が更に右土地を熊谷組から取得することを内容とする本件基本協定を締結していること、また、被告興和は、本件基本協定書作成の段階では、既に確実な転売先として三和銀行を予定し、その買付申込書を得ていたこと等を考え合わせると、本件基本協定は、単に交渉を円滑にするために今後の協議や手順の概要を確認するだけの事実上の効果を有するにとどまらず、その締結により原告らと被告興和との間には本契約の締結に向けた緊密な関係が生じたというべきであって、その後は、お互いに、特段の事情がない限り、本契約が成立するとの合理的な期待を抱かせるに至ったものというべきである。したがって、この合理的な期待を裏切り、特に正当視すべき理由もないのに、契約の締結に向けた行為に出ることを一方的に拒絶することは、契約準備段階にある当事者としての信義則上の義務違反となり、その者は、相手方に対して不法行為に基づく損害賠償責任を負うものというべきである。
そして、前記1(四六)で認定した本件の経緯によれば、被告興和は、本件変更基本協定において定められた期限までに本件国土法届出を行わず、本件プロジェクトの進行を中断させたことが明らかである。そこで、次に被告興和に、本契約の締結を拒絶する正当な事由があったか否かを検討する。
(二) この点について、被告興和は、平成四年五月末日の時点では、本件建物の基本構想すらまとまっていないため、その価格を決められない状況にあった上、本件土地の価格も決まっておらず、また、当時不動産の価格が急激に下落していたことからすれば、本件国土法届出前に本件変更基本協定を再度検討する必要があったから、被告興和には、本契約の締結を拒絶する正当な事由があった旨主張する。
しかし、前記1で認定した本件の経緯並びに証人佐藤及び同菅野の証言によれば、確かに平成四年五月当時、本件建物の設計は、基本計画、基本設計、実施設計という諸段階のうち、基本計画も完了していない状態にあったが、これは、本件プロジェクトがいわゆる売建方式であり、被告興和及び被告興銀が、本件建物の設計につきエンドユーザーとしての要望を述べる必要があるにもかかわらず、本件基本協定締結後、速やかに具体的な指示をしなかったこと、また、本件基本協定においては、本件建物につき総合設計制度を採用することとされていたのに、被告興銀が通常設計を望んだこと、さらには被告興和が、本件変更基本協定締結後の平成四年二月五日に、右協定に反して、被告興銀の要望を受けて日本設計に設計を発注したために設計業務の役割分担を定める必要が生じてしまったこと等に起因するものであると認められるところ、証人伊藤及び同田巻の各証言によれば、右のような事態が生じたのは、本件基本協定締結のころ、被告興和は、被告興銀が本件建物につき一フロアの面積が広くできる通常設計を望んでいることを知りながら、これを原告側に伝えて早期に調整を図ることをせず、また、被告興銀に対し、本件建物の価格については、建築単価が坪一五〇万円であると告げたのみであり、本件土地の価格については、原告側との交渉を踏まえた検討材料を何ら与えていなかったことによるところが大きいことが認められる。
また、本件建物及び本件土地の価格が全く決まっていなかったとの点に関しては、その内容につき口頭の合意が成立していた本件基本協定補足書で本件土地の価格は暫定価格として坪当たり六〇〇万円とされており、本件変更基本協定締結時に、原告鉄工がロジェ企画に対し売却した価格で被告興和が本件国土法届出を行うことが暗黙の前提となっていたにもかかわらず、いわゆるバブル経済の崩壊による不動産市況の悪化を理由に被告興和らが度重なる値下げの要求をしていたにすぎない。しかも、本件プロジェクトにおいては、本件土地の代金の一部を本件建物の代金の中に含ませて、実質的に国土法届出価格以上の代金で本件土地を売買することを企図していたのであるから、本件建物の設計を決める中で最終的な利益の調整も可能であったと考えられる。
(三) 結局は、被告興和が本件国土法届出をしなかったのは、バブル経済の崩壊による不動産市況の悪化により、本件プロジェクトの見直しをし、売買代金の値引きを引き出したいという意図に基づくものであり、このことは、被告興和が何度も値引きの要求をしていること及び谷口弁護士が平成四年六月九日の内容証明郵便において価格調整ができていないために本件国土法届出ができなかった旨を述べていることからも明らかである。そして、被告興和は、不動産の売買、その仲介及び鑑定等を目的とする株式会社であり、平成二年三月の大蔵省銀行局長通知により地価高騰を抑える目的で、金融機関の土地関連融資残高を規制するいわゆる総量規制が実施されていたことは前記1(五一)で認定したとおりであるから、被告興和は、本件基本協定後、少なくとも本件変更基本協定の締結の段階においては、本件プロジェクトを行うに当たって、景気の動向や不動産市況の現状及び今後の見通し等諸般の事情を総合的に検討し得たはずである。
以上の諸点を総合すると、平成三年一二月二六日に締結された本件変更基本協定により国土法の届出期限を定めた後、わずか五か月余りで、著しい不動産価格の下落を理由として本件国土法届出に協力せず、本件基本協定から約一年九か月が経過した段階で、本契約の締結に向けた行為に出ることを一方的に拒絶することについては、正当な事由があるということはできず、本契約が成立するとの原告らの合理的な期待を裏切ってはならないとの信義則上の義務に違反するものであるというべきである。
したがって、被告興和には、右信義則上の義務違反行為があり、原告らに対し、不法行為に基づく損害賠償責任を負うというべきである。
3 被告興銀の責任
(一) 被告興和が被告興銀の関連会社であり、本件基本協定を締結したこと、従前最有力候補としていた三和銀行に代えて被告興銀を本件土地建物の転売先に予定し、その後、原告鉄工に対する被告興銀の融資のあっせんをしたことは前記前提事実及び前記1(三)で認定のとおりであるが、右事実から、被告興和が被告興銀の代理人として本件基本協定又は本件変更基本協定を締結したものと推認することはできず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。
(二) 右のとおり、被告興和が被告興銀の代理人として本件基本協定又は本件変更基本協定を締結したということはできず、また、本件基本協定又は本件変更基本協定に関し、信義則上被告興銀を被告興和と同一視すべき事情を認めるに足りる証拠もないから、これらは、いずれも被告興銀に対し法的な拘束力を持つものではない。
(三) もっとも、前記前提事実及び前記1で認定のとおり、本件プロジェクトは、いわゆる売建方式であるため、本件建物の仕様を決定するにはエンドユーザーの意向を踏まえる必要があり、被告興銀も、本件基本協定が締結された平成二年八月ころ、右事実を認識して本件土地建物買受の意思を示し、平成三年八月以降は、被告興銀が本件建物のエンドユーザーとなることを前提として、その担当者や被告興銀の建築関係のコンサルタントである日本設計の担当者が数回にわたり本件建物の設計等に関する打合せに出席したのであるから、原告側が最終的に本件土地建物を被告興銀が買い受けるものと理解し、期待したのも無理からぬところである。
しかしながら、前記1で認定のとおり、被告興銀に本件プロジェクトの話が持ちかけられたのは本件基本協定直前の平成二年七月であり、本件基本協定が締結されたころ、本件建物については、その基本設計はおろか、基本計画も作成されておらず、被告興銀は、本件プロジェクトが総合設計制度を採るものであることなど本件基本協定の概要は知らされていたものの、本件土地及び本件建物の価格に関する原告側と被告興和との合意内容は知らされておらず(むしろ、前記1(七)で認定したとおり、被告興銀は、被告興和の担当者から、本件建物の建築単価は、一五〇万円程度であると聞いていた。)、被告興銀と被告興和との間でも、右価格等に関する具体的交渉はされていなかった。したがって、特段の事情がない限り、本件基本協定が締結された平成二年八月の段階で被告興銀に信義則上本件土地建物の売買契約に協力し、これに応ずべき法的義務が生じたということはできない。
また、被告興銀は、本件建物につき新しい電算センターという明確な使用目的をもっていたのであるから、売建方式の下で、その目的にかなった設計を求めることは当然であり、他方、総合設計制度は、これを採用することにより容積率の割増しを受けて建物の高層化を図ることができ、売主としては、より多くの利益を得ることが可能となり、買主としても床面積当たりの費用を低くすることが可能となるが、基本設計もされていない段階で、建物の使用目的を離れ、総合設計自体が目的化することは不合理である(原告らも総合設計制度は、もともと被告興和が要求したものであると主張しており、また、被告興和の担当者が被告興銀において通常設計を望んでいることを知りながら、原告側との調整が可能と考えていたことは前記1で認定したとおりである。)から、本件基本協定の当事者ではない被告興銀が総合設計制度採用の見直しを含めて、本件建物の設計に種々の要望をし、原告側と打合せを重ねたのもやむを得ないことである。さらに、原告鉄工が平成三年三月に熊谷組から本件土地一を買い受けたのは、本件基本協定で予定されていたことである上、熊谷組も本件プロジェクトの一員として本件基本協定の前年に右土地を福島合名会社から買い受けていたのであるから、原告鉄工の本件土地一の買受けをもって、被告興銀の行動があった故にされたものであるとみることはできない。また、被告興銀が同年一二月の本件変更基本協定の作成に関与していないことは、前記1(二七)で認定したとおりである。以上の諸点を考慮すると、被告興銀が本件基本協定後、原告側と本件建物設計等に関し種々の打合せを重ねたからといって、被告興銀に、信義則上、本件土地建物の売買契約に協力し、これに応ずべき法的義務が生じたということはできない。
なお、原告らは、被告興銀が平成三年四月に原告鉄工に対し、熊谷組から本件土地一を買い取るための資金を融資したことをもって、被告興銀に本件土地建物の売買契約に協力すべき義務があることの根拠の一つとするが、右売買契約が本件基本協定で予定されていたものであること及び原告鉄工が右代金の融資を三菱銀行から受けることも可能であったことは前記1(三)で認定したとおりである上、乙九号証、証人佐藤及び同伊藤の各証言によれば、被告興銀による右融資は、被告興銀が本件土地建物を買い受けることを予定している中で行われたものではあるが、被告興銀虎の門支店の通常の融資として実行されたことが認められるから、原告ら関係者がこれにより本件プロジェクトの実現可能性が高まったものと考えたことは想像に難くないが、これをもって被告興銀に原告ら主張の義務が生じたものということはできない。
(四) 他に、被告興銀に原告ら主張の信義則上の義務があったことを基礎付ける事実を認めるに足りる証拠はない。
よって、原告らの被告興銀に対する請求は、その余の点を判断するまでもなく、いずれも理由がない。
二 争点3(損害)について
1 主位的主張について
原告らの損害に関する主位的主張は、被告興和が本件国土法届出等について原告らに協力をすれば、本件プロジェクトの実現が確実であったのであるから、被告興和は、その信義則上の義務に違反して右届出をしなかったことにつき、右プロジェクトが実現した場合に原告らが得たであろう利益を賠償する義務があるとするものである。
しかし、原告らと被告興和との間で成立した本件基本協定及び本件変更基本協定は、売買契約の締結に向けて協力する旨の合意にすぎないから、被告興和が信義則上の義務に違反して右協力をしなかったことにつき原告らに賠償すべき損害は、売買契約の成立を前提とした得べかりし利益ではなく、原告らが、被告興和の協力があることを信頼して行動したことによる損害、いわゆる信頼利益の範囲の損害であるというべきである。
したがって、原告らの主位的主張は理由がない。
2 予備的主張について
(一) 原告鉄工に生じた損害
(1) 本件土地一底地の取得費用
前記前提事実4のとおり、原告鉄工は、平成三年三月二九日、熊谷組との間で、本件土地一を八一億五〇〇〇万円で買い取る旨の売買契約を締結し、同年四月一五日、右売買代金を支払った。右売買契約は、本件基本協定(甲一)の第1条(1) (前提事実3(一)(2) )で予定された売買契約であり、原告鉄工は、本件プロジェクトの実現を期待して右売買代金を支出したということができる。
もっとも、原告鉄工は、右売買契約により本件土地一の所有権を取得したのであるから、右売買代金全額が直ちに損害になるということはできないが、他方、原告鉄工は、本件土地一を被告興和に右代金額と同額で売却することを予定していたのであるから、その後右売買代金額より値下がりした部分については、原則として本件プロジェクトの実現を期待して支出した費用が一部回収できなかったものと評価することができ、右部分が損害になると認められる。
前記一1(五〇)で認定したとおり、本件土地一は、平成一〇年八月七日、競売手続において、本件工場等とともに三六億五五〇〇万円で売却されていることが認められ、また、前記売買は、本件土地一上の借地権を残したままのいわゆる底地売買であるところ、甲六号証ないし八号証及び一五八号証に照らすと、底地の割合は四割が相当であると認められる(なお、前記一1で認定した本件経緯に照らせば本件工場等の経済的価値は〇と認められる。)。したがって、競落価格の四割である一四億六二〇〇万円が底地のみの価格であると考えられ、底地権の値下がり分は、六六億八八〇〇万円になる。
もっとも、本件土地一の底地権の価格が競売までの七年間でわずか六分の一強まで下落することは当事者として通常予測し難いものである上、競売手続においては一般に市場価格より低い価額で競落されることなどに鑑みると、右値下がり部分の五割に限り、被告興和の前記義務違反と相当因果関係のある損害とみるのが相当である。
したがって、本件土地一底地の取得費用としては、三三億四四〇〇万円が損害として認められる。
(2) 売買契約書貼用印紙額
甲一六号証、一四〇号証及び一五七号証によれば、原告鉄工は、平成三年三月二八日、熊谷組との間の本件土地一の売買契約の貼用印紙代として、六〇万円を支払ったことが認められる。
右金員は、本件プロジェクトの実現を期待して、本件基本協定第1条(1) (前提事実3(一)(2) )の履行として行われた右売買契約の費用として支出されたのであるから被告興和の前記義務違反と相当因果関係のある損害と認められる。
(3) 仲介手数料
甲一六号証、一四一号証及び一五七号証によれば、原告鉄工は、同年四月一五日、前記売買契約の仲介手数料として、株式会社遊間工房に対し、二億四四五〇万円を支払ったことが認められる(なお、原告鉄工が仲介手数料中消費税相当額と主張する七三三万五七三二円については、これを認めるに足りる証拠はない。)。
右金員は、本件プロジェクトの実現を期待して行われた前記売買契約の費用として支出されたのであるから被告興和の前記義務違反と相当因果関係のある損害と認められる。
(4) 司法書士手数料及び印紙額
甲四号証の1ないし9、一四三号証ないし一四五号証及び一五七号証によれば、原告鉄工は、司法書士宮本敏行に対し、平成三年四月二二日、本件土地一の所有権移転登記及び共同根抵当権設定登記等の手続報酬及び登録免許税等として一億〇三〇九万三五〇〇円を、同年一一月一四日、被告興銀のための本件土地一に対する共同根抵当権の極度額増額登記の手続報酬及び登録免許税等として二一四万二八〇〇円を、平成四年二月一四日、同じく被告興銀のための本件土地一に対する共同根抵当権の極度額増額登記の手続報酬及び登録免許税等として九二万三四〇〇円を支払ったことが認められる。
右金員のうち、平成三年四月二二日の本件土地一の所有権移転登記及び共同根抵当権設定登記等の手続報酬及び登録免許税等は、本件プロジェクトの実現を期待して行われた前記売買契約の経費として支出されたのであるから被告興和の前記義務違反と相当因果関係のある損害と認められる。また、その後の二度の共同根抵当権極度額増額登記に要した費用については、本件プロジェクトにおいて、原告鉄工の本件土地一取得費用は、本契約が成立し原告鉄工が代金を取得するまでは、融資によってまかなわれることが予定されており、被告興和の紹介によって、被告興銀から融資を受けることになったが、右融資の弁済期までの期間が極めて短期間であり、かつ、共同根抵当権の極度額が融資額と同額であることからすれば(甲四の1ないし9、甲六三、六四、乙三、四)、右共同根抵当権の極度額増額は、原告鉄工と熊谷組の間の本件土地一売買契約の時点から予定されていたということができ、被告興和の前記義務違反と相当因果関係のある損害と認められる。
(5) 不動産取得税
甲一四六号証の1ないし8及び一五七号証によれば、原告鉄工は、平成四年四月二〇日、本件土地一を取得したことによる平成三年度不動産取得税として五一六八万一五〇〇円を支払ったことが認められる。
右不動産取得税は、本件プロジェクトの実現を期待して行われた前記売買契約の結果として必然的に発生する費用であるから、被告興和の前記義務違反と相当因果関係のある損害と認められる。
(6) 不動産鑑定手数料
甲一四七号証ないし一四九号証、一五五号証ないし一五七号証によれば、原告鉄工は、本件土地一を熊谷組から買い取るに当たり、本件土地一の鑑定料として、平成三年二月五日、日本土地建物株式会社に対し三二五万一七一〇円を、株式会社五明不動産鑑定事務所に対し三二三万円をそれぞれ支払い、また、本件土地一を被告興和に売却するための参考として実施した鑑定の費用として、平成四年五月二九日、右五明不動産鑑定事務所に対し二七三万〇三二三円を支払ったことが認められる。
右金員のうち、熊谷組に買い取らせるに当たって行った鑑定の費用については、本件プロジェクトの実現を期待して行われた前記売買契約の費用として支出されたのであるから被告興和の前記義務違反と相当因果関係のある損害と認められる。また、被告興和に対して売却するための参考として行った鑑定の費用についても、本件プロジェクトにおいて最終的に本件土地一を被告興和に売却することになっていたのであるから、右鑑定料も、本件プロジェクトの実現を期待して支出された費用であり、被告興和の前記義務違反と相当因果関係のある損害と認められる。
(7) 被告興銀からの借入金に対する利息及び損害金
ア 甲一一八号証ないし一二五号証及び一五七号証によれば、原告鉄工は、熊谷組からの本件土地一の買取資金として受けた融資の利息及び遅延損害金として次のとおり支払ったことが認められる。
(ア) 平成三年四月一五日から同年七月一五日まで分(利息) 二億〇二一七万一一二六円
(イ) 同日から同年八月一五日まで分(利息) 六五二三万九五一三円
(ウ) 同日から同年一一月一五日まで分(利息) 一億九三三四万〇一九五円
(エ) 同日から平成四年二月一七日まで分(利息) 一億七四一六万一一一一円
(オ) 同日から同年五月一八日まで分(利息) 一億五二三〇万八七二二円
(カ) 同日から同年六月一八日まで分(利息) 四八一六万一九四四円
(キ) 同年七月一七日から平成一〇年一二月一八日まで分(遅延損害金) 三六億〇七二二万七五一九円
イ 本件プロジェクトにおいて、原告鉄工の本件土地一取得費用は、本契約が成立し原告鉄工が代金を取得するまでは融資によってまかなわれることが予定されていたのであるから、右融資についての利息等は、原告鉄工が本件プロジェクトの実現を期待して支出するに至った費用といえ、原則として、被告興和の前記義務違反と相当因果関係のある損害と認められる。
しかし、前記一1(四八)で認定したとおり、原告鉄工が被告興銀に手形の書替えを拒否された平成四年七月一七日までには、被告興和から本件国土法届出が遅延するのはやむを得ないとの返答を得ているなど、本件プロジェクトが実現できないことが原告鉄工に明らかになっていることに鑑みれば、同日以後の遅延損害金については、被告興和の前記義務違反との間に相当因果関係があるとはいえない。
(8) 被告興銀からの借換えに際して要した貼用印紙額
甲一二〇号証ないし甲一二三号証及び一五七号証によれば、原告鉄工は、被告興銀から借り入れた前記九〇億円を、平成三年一一月一四日、平成四年二月一四日、同年五月一五日及び同年六月一七日の合計四回にわたって借換えた際に、それぞれ二〇万円を契約書貼付印紙代として支払ったことが認められる。
前項のとおり、原告鉄工の本件土地一取得費用は、本契約が成立し原告鉄工が代金を取得するまでは融資によってまかなわれることが予定されており、被告興和の紹介によって被告興銀から融資を受けることになったが、右融資の弁済期までの期間が極めて短期間であることからすれば(甲六三、六四、乙三、四)、借入金の借換えは、原告鉄工と熊谷組の間の本件土地一売買契約の時点から予定されていたということができるから、右借換えに要した費用は、被告興和の前記義務違反と相当因果関係のある損害と認められる。
(9) 固定資産税、都市計画税相当額及び地価税相当額
甲一二六号証の1ないし4、一二五号証ないし一三〇号証、一三一号証の1及び2、一三二号証の1及び2、一三三号証の1及び2、一三四号証並びに一五七号証によれば、原告鉄工は、本件土地一の平成四年度から平成一〇年度までの固定資産税及び都市計画税として合計一億六二〇二万三〇〇〇円を、同じく地価税として六三二四万六八〇〇円をそれぞれ支払ったことが認められる。そして、原告鉄工は、本件プロジェクトの実現のために本件土地一を取得し、その結果、右の諸税を支払う義務を負ったのであるから、その意味で、本契約が締結されることを信頼したために支出した費用ともいい得る。
しかし、右諸税は、経済的価値を有する土地の所有者として支払義務を負うものであって、現に、原告鉄工は、本件土地一取得前には、土地の賃借人として賃料を支払っていたところ、本件土地一取得後は、右賃料を支払う必要がなくなり、所有者としての利益を得ている。そうすると、右諸税は、本契約締結を信頼したために直接支出を余儀なくされたというよりも、経済的価値を有する土地を保有することに伴って支出した費用と評価すべきであるから、被告興和の前記義務違反との間に相当因果関係があるということはできない。
(10) 設計監理料(企画料)
甲一号証、三号証、一三六号証、一三七号証及び一五七号証によれば、原告鉄工は、善設計に対し、設計監理料(企画料)として、平成三年四月一五日に一億円を、同月一六日に三〇〇万円を支払ったことが認められる。
しかし、甲六号証、七号証及び丙一四号証によれば、原告鉄工は、被告興和と本件基本協定を締結する以前から、善設計に本件土地等のプロジェクトに関する設計監理を依頼しており、善設計の業務として本件基本協定以前に行われたものもある上、本件プロジェクトが基本企画の段階で終了していることに鑑みれば、右設計監理料のうちの五割である五一五〇万円が被告興和の前記義務違反と相当因果関係のある支出というべきである。
(11) 借地権売却代金相当額
原告鉄工は、本件プロジェクトがなければ、本件土地一の借地権を遅くとも平成二年一二月末ころまでには、九九億一四八四万五五〇〇円で売却することができたと主張するが、右事実を認めるに足りる証拠はない。
(12) 損害額合計
以上により、被告興和の前記義務違反と相当因果関係のある損害は、合計四六億四三八三万五八四四円となる。
しかしながら、前示事実関係からすれば、本件プロジェクトが本契約に至らなかったことについては、原告側も総合設計制度の採用に固執したためエンドユーザーとなるべき被告興銀の意向との調整に時日を要し、このことが不動産市況の急激な悪化と相まって本件プロジェクトの進行を困難にさせたという事情があり、原告鉄工としても、当時の客観的な情勢の推移に鑑みれば、少なくとも熊谷組から本件土地一を買い受けた時点では、本件プロジェクトの挫折という事態もある程度は予測し得ないものではなく、それに伴うリスクも契約準備段階にある一方当事者としては多かれ少なかれ甘受していたと推認できる。これらの事情を総合考慮すると、損害の負担の公平を図るため、過失相殺として、右損害から五割を減額し、二三億二一九一万七九二二円を賠償させるのが相当である。
(三) 原告エヌアールに生じた損害
(1) 土地売買契約書貼用印紙額、法人税及び地方税
甲一五〇号証及び一五七号証によれば、原告エヌアールは、ロジェ企画との間の本件土地一の借地権及び本件土地二の売買契約に際し、平成三年一二月二五日、右契約書に貼付する印紙代として四〇万円を支払ったことが認められ、甲一五二号証の1ないし3、一五三号証の1ないし2及び一五七号証によれば、原告エヌアールは、平成四年七月三一日及び同年一二月二五日に、右売買に関する法人税及び地方税として、それぞれ合計四九〇六万五六〇〇円及び二三七四万九一〇〇円を支払ったことが認められる。
しかし、甲九四号証によれば、右売買は、原告エヌアールが、平成三年一二月三一日までに譲渡を行わなければ、税務上、事業用資産の買換えの特例の適用を受けることができないことから、本件基本協定を変更して行われたものであり、専ら原告エヌアールの事情によるものというべきであるから、被告興和の前記義務違反と相当因果関係のある支出ということはできない。
(2) 設計監理料(企画料)
甲一号証、三号証、一三八号証及び一五七号証によれば、原告エヌアールは、平成四年五月二五日、善設計に対し、設計監理料として二億円を支払ったことが認められる。
しかしながら、原告エヌアールが、善設計に右設計監理を依頼した時期及び本件プロジェクトが基本企画の段階で終了したことは、原告鉄工について判断したのと同様であるから、右設計監理料のうちの五割である一億円が被告興和の前記義務違反と相当因果関係のある支出というべきである。
(3) 税理士報酬
甲一三八号証及び一五七号証によれば、原告エヌアールは、平成四年五月二五日、税理士矢澤順に対し、前記ロジェ企画に対する売買、その他本件プロジェクトの税務面についての監修に対する報酬として二〇〇〇万円を支払ったことが認められる。
しかし、右売買が、原告エヌアールの都合でされたことは既に判示したとおりであり、また、本件プロジェクト自体、被告興和が関与する以前から始まっていることから、右金員は、被告興和の前記義務違反と相当因果関係のある支出ということはできない。
(4) 不動産鑑定手数料等
甲一五一号証及び一五七号証によれば、原告エヌアールは、原告鉄工が熊谷組から本件土地一を買い取るに当たって行った不動産鑑定の際に、原告エヌアールの借地権も評価の対象とされたことから、平成四年五月二九日、五明不動産鑑定事務所に対し、八一万二八七七円を支払ったことが認められる。
右鑑定は、本件基本協定に基づいてされた右売買に当たってされたものであり、原告エヌアールの借地権の評価も本件プロジェクトを進めるに当たって必要であったということができるから、右金員は、本契約の成立を期待して支出した費用ということができ、被告興和の前記義務違反と相当因果関係のある損害ということができる。
(5) 借地権・土地売却代金相当額
原告エヌアールは、本件プロジェクトがなければ、本件土地一の借地権及び本件土地二の所有権を遅くとも平成二年一二月末ころまでには合計五三億一九七二万円で売却することができたと主張するが、右事実を認めるに足りる証拠はない。
(6) 損害額合計
以上により、被告興和の前記義務違反と相当因果関係のある損害は、一億〇〇八一万二八七七円となる。
しかしながら、損害の公平な負担を図るために考慮すべき事情があることとは前記(二)(12)で原告鉄工について判断したのと同様であり、原告エヌアールについても、過失相殺として、右損害から五割を減額し、被告興和に五〇四〇万六四三八円を賠償させるのが相当である。
第四結論
以上のとおり、原告鉄工の請求は、被告興和に対し二三億二一九一万七九二二円及びこれに対する不法行為の日の後である平成四年七月一八日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において、原告エヌアールの請求は、被告興和に対し五〇四〇万六四三八円及びこれに対する不法行為の日の後である平成四年七月一八日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるが、原告らの被告興和に対するその余の請求及び被告興銀に対する請求はいずれも理由がないから、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 鈴木健太 裁判官 駒田秀和 裁判官廣田泰士は転補のため署名押印できない。裁判長裁判官 鈴木健太)
物件目録
一1 所在 江戸川区西葛西三丁目
地番 八番一四
地目 宅地
地積 六六七・七六平方メートル
2 所在 江戸川区西葛西三丁目
地番 八番一五
地目 宅地
地積 一〇五二・九八平方メートル
3 所在 江戸川区西葛西三丁目
地番 八番一六
地目 宅地
地積 二九七・〇四平方メートル
4 所在 江戸川区西葛西三丁目
地番 八番一七
地目 宅地
地積 三三四・〇一平方メートル
5 所在 江戸川区西葛西三丁目
地番 八番一八
地目 宅地
地積 二四〇一・三九平方メートル
6 所在 江戸川区西葛西三丁目
地番 八番一九
地目 宅地
地積 一六六八・二四平方メートル
7 所在 江戸川区西葛西三丁目
地番 八番二〇
地目 宅地
地積 二〇四三・四四平方メートル
8 所在 江戸川区西葛西三丁目
地番 八番二一
地目 宅地
地積 四〇・〇六平方メートル
9 所在 江戸川区西葛西三丁目
地番 八番二二
地目 宅地
地積 二三三四・六七平方メートル
二 所在 江戸川区西葛西三丁目
地番 八番二三
地目 宅地
地積 一三二七・五七平方メートル
三1 所在 江戸川区西葛西三丁目八番地一五、八番地一六
家屋番号 八番一五の一
種類 寄宿舎倉庫
構造 鉄骨造スレート葺二階建
床面積 一階 二〇八・八四平方メートル
二階 二〇八・八四平方メートル
2 所在 江戸川区西葛西三丁目八番地一五、八番地一四
家屋番号 八番一五の二
種類 事務所
構造 鉄骨造陸屋根二階建
床面積 一階 九六・〇九平方メートル
二階 八八・六九平方メートル
3 所在 江戸川区西葛西三丁目八番地一八、八番地一四、八番地一五、八番地一九
家屋番号 八番一八の一
種類 工場
構造 鉄骨造スレート葺平家建
床面積 一八四二・五二平方メートル
4 所在 江戸川区西葛西三丁目八番地一八、八番地一五、八番地一六、八番地一七
家屋番号 八番一八の二
種類 倉庫工場
構造 鉄骨・木造スレート葺平家建
床面積 八四五・四三平方メートル
5 所在 江戸川区西葛西三丁目八番地一九
家屋番号 八番一九の一
種類 変電所
構造 鉄筋コンクリートブロック造平家建
床面積 四九・五八平方メートル
6 所在 江戸川区西葛西三丁目八番地一九、八番地一八、八番地二〇
家屋番号 八番一九の二
種類 工場
構造 木・鉄骨造スレート葺平家建
床面積 六六五・〇〇平方メートル
7 所在 江戸川区西葛西三丁目八番地二〇
家屋番号 八番二〇の一
種類 工場
構造 鉄骨造スレー卜葺平家建
床面積 九五一・一三平方メートル
8 所在 江戸川区西葛西三丁目八番地二〇
家屋番号 八番二〇の二
種類 工場
構造 鉄骨造スレート葺平家建
床面積 三六〇・九五平方メートル